技術コラム【吐出の羅針学】サーボモーターに流れる電流
前回はサーボモーターの中で、最も一般的なACサーボモーターの構成を簡単に説明しました。今回は、ACサーボモーターに流れる電流について説明します。少し難しいかも知れませんが、イメージを理解していただけたらと思います。
DCモーターに流れる電流
ACサーボモーターに流れる電流を解かりやすくするために、DCモーターのことに少し触れておきます。DCモーターはステーター(固定子)が磁石、ローター(回転子)がコイルを巻いた電磁石になっており、ローターの電磁石に電流を流すためにコミュテーターとブラシが付いています。
コミュテーターとブラシはモーターの回転角によって、コイルの電流の向きを正方向と逆方向に機械的に切り変える仕事をしています。いいかえると、コミュテーターはローターとステーター(磁石の極性)との相対位置を検出し、それに応じて電流極性が切り替えられています。
ACサーボモーターに流れる電流
ACサーボモーターの構造をDCモーターと同じイメージで書くと下のようになります。
DCモーターと比べると、次の点が違います。
- 磁石とコイルの配置が逆(回転部が磁石、固定部が電磁石)になっています。
- コミュテーターとブラシが無くなり、その代わりに磁極センサー(※1)とサーボドライバーがあります。
(※1)
磁極センサー(ポールセンサー:Pole sensor)の代表的なものは、ホールセンサーです。ホールセンサーは電流が流れているところに磁界を近づけると電界が発生するというホール効果(Hall effect)を利用したものです。ホールセンサーとON-OFFスイッチを組み合わせて磁極の変化で出力がON/OFFするものは、ホールICと呼ばれています。いずれも大きさは2~5mm角程度のものです。
電流を出力するサーボドライバーは、磁石の回転角を検出する磁極センサーの信号を受け、電流の順方向と逆方向を切り替えています。その結果、DCモーターと同じ波形の電流がACサーボモーターにも流れます。
しかし、DCモーターと同じような方形波状の電流では、モーターの効率はよくありません。実際のACサーボモーターでは、磁極センサーよりもっと分割数の大きな検出器を組み込んでいて、下図のように回転角に応じた正弦波状に電流を流すことによって効率を高くしています。
インバーターとの差異
汎用モーターとインバーターの組み合わせにおいても、同じように一回転あたり極対数(=極数/2)個の正弦波の電圧をモーターに印加しますが、ACサーボモーターがインバーターと違う点は次の2点です。
- 正弦波のスタート位置(位相)が機械的に固定されています。
- 通電電流が正弦波状になるように制御しています(印加電圧ではありません)。
状況の変化に対する電流の挙動
サーボドライバーは、電気角θ(モーター回転角)に対する正弦波sinθに係数Aを乗じた電流Asinθを流します。この係数Aは状態に応じて、次のように変化します。
- 逆回転させる場合は負
- 負荷が小さいときは小数
- 負荷が大きいときは1以上の値
これを電流Asinθを波形にすると下のようになります。
三相モーターの電流
先ほど説明したモーターは単相(動力線が2本)で描きました。しかし、ほとんどのACサーボモーターは三相であり、その動力線は3本あります。その3本の動力線(U相、V相、W相)に流れる電流は下図のように電気角で120°ずつずれた正弦波になっています。
何で、ACサーボモーターの電流は三相の正弦波なのでしょう。
モーターは出力軸を手でまわすと発電機になります。その時の発生電圧は120°位相差の正弦波です。電圧の発生=エネルギーの発生ですから、エネルギーが正弦波状に発生すると考えてください。また、モーターを電気エネルギーと回転エネルギーの相互変換機と考えると、発生電圧がエネルギーの変換係数(=電流を回転力に変える係数=トルク感度[Nm/A])といえます。各相に流れる電流とこのトルク感度がともに正弦波ですので、モーターの出力トルクは次の式になります。
モータートルク=(U相電流×U相トルク感度)+(V相電流×V相トルク感度)+(W相電流×W相トルク感度)
この式から120°ずれた三相の正弦波で電流を流すと、電気角θ(モーター回転角)に関係なく、モーター電流値Iに比例した回転トルクが発生します。ただし、正弦波状である「モーターの各相の逆起電力」と「逆起電力に対応する相の電流」の位相差は0度であることが必要です。
かつては、五相のACサーボモーターもありました。昔は現在ほど、電流を出力するドライバーやセンサーの性能がよくなかったので、モーターの構造を複雑にすることによって、回転時に発生するトルクの脈動を小さくしようとしていたようです。