技術コラム【吐出の羅針学】グリース選定の目安と塗布量管理
「接触面の潤滑と潤滑剤の効果」では、機械要素間の接触面が運動するとき、その機械の性能や寿命は潤滑剤によるところが大きい、という話をしました。潤滑剤には大きく分けて、オイルとグリースの2種類がありますが、一般的にはグリースを使用することが多いと思いますので、今回はグリースについてお話ししたいと思います。
グリースとは
固体あるいは半固体の潤滑剤で、ゲル状の物質にするための成分(増ちょう剤)と潤滑油(基油)を混合したものです。
リースの長所と短所(オイルとの比較)
長所
- 交換頻度が少ない
- 密封構造にできる
- 機械構造を簡略化できる
- シール効果がある(外部からの異物を遮断できる)
- 漏えい、飛散が少ない
短所
- 冷却効果が低い
- 密封構造のため、交換の際には分解する必要がある
- 粘度が高く、抵抗が大きいため、運動速度に制限がある
グリースの選定に重要な「ちょう度」
一般的には、下図のさまざまな要素を考慮しながら適切なグリースを選定しますが、接触面の潤滑について考えるとき、グリース粘度の選定が重要になります。グリースの場合、粘度は「ちょう度」として表されますので、まず「ちょう度」について説明したいと思います。
ちょう度とは、グリースの硬さ(粘度)を示す値であり、グリースの流動性を表す目安となります。
NLGI ちょう度番号 |
No.000 | No.00 | No.0 | No.1 | No.2 | No.3 | No.4 | No.5 | No.6 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ちょう度 (25℃) |
445~475 | 400~430 | 355~385 | 310~340 | 265~295 | 220~250 | 175~205 | 130~160 | 85~115 |
硬さ |
表に示すように、ちょう度が大きいほど粘度が低い(軟らかい)グリースになります。一般的に軸受、歯車などには、ちょう度番号No.1かNo.2のグリースがよく使用されます。
グリース選定の目安
グリースのちょう度は、運動する接触面が可能な限り流体潤滑の状態になるように選定します。そのとき必要となるのが、前回のコラムで説明したストライベック曲線です。この曲線を用いて、負荷や運動速度を基準に、接触面が流体潤滑になるちょう度(粘度)を求めます。
負荷を基準にする場合
高負荷:ちょう度が小さいもの(粘度が高い)
低負荷:ちょう度が大きいもの(粘度が低い)
ちょう度が小さいグリースの方が厚い流体膜を形成しやすく、高負荷でも流体潤滑になりやすいためです。
速度を基準にする場合
高速:ちょう度が大きいもの(粘度が低い)
低速:ちょう度が小さいもの(粘度が高い)
高速運動のときは流体膜を形成しやすいので、ちょう度が大きいグリースでも流体潤滑になります。低速運動のときには流体膜を形成しにくいので、ちょう度が小さいグリースが必要になります。
ただし、「高負荷×高速」の場合は注意が必要です。高負荷を基準にちょう度が小さいグリースを選定すると、抵抗が大きくなって発熱し、高温になります。その結果、グリースの粘度が低下し、流体膜が形成されにくくなってしまいます。
これではちょう度が小さいグリースを選定した意味がなくなってしまいます。また、「低負荷×低速」 の場合では、低負荷を基準にちょう度が大きいグリースを選定すると、低速なので流体膜が形成されにくくなります。だからといって、ちょう度が小さいグリースを使用すると、発熱してグリースの粘度が低下してしまいます。
このような場合、適正なグリースの選定はとても難しく、トライアル&エラーを繰り返して模索していくことになります。
グリースの塗布量管理
ちょう度の話をしてきましたが、潤滑にはグリースの塗布量も重要です。グリースの量が多くなると抵抗が大きくなって発熱し、グリースの粘度が下がります。この結果、流体膜が形成されにくくなります。グリースは一般的に温度が10℃上昇すると寿命が半分になる(10℃半減則)と言われています。塗布量は多ければいいというものではありません。
また、塗布量が少なくても流体膜が形成されず潤滑不良になり、機器の焼き付きに繋がります。よって、グリースの選定には種類だけでなく、塗布量も重要なのです。